-プロダクトデザイナー/アートディレクター- 黒野真吾編連載「MY DOUBLE STANDARD」

使い続けているのにはワケがある。あの人の2つの定番アイテムにフォーカス。

edit&text_Marina Haga / photo_Erina Takahashi

ファッション関係者、アーティストなど、自らのスタイルを持つ人たちが、自分にとって欠かせない定番をファッションアイテムと雑貨から2つピックアップして紹介する新連載「MY DOUBLE STANDARD(マイ ダブル・スタンダード)」。第12回目は、先日ローンチした時計ブランド[sazaré(さざれ)]のデザインを監修するなど、プロダクトデザインからグラフィックまでマルチにこなす、黒野真吾さんが登場です。

1.「今ここでしか出会えないというストーリーにグッとくる」デッドストックのパンツ / 定番歴:3年

80年代のデットストックのパンツ。黒野さんはウエストをキュッと絞りタックを入れたようにして穿いているとのこと。

先日発表された時計ブランド[sazaré(さざれ)]のプロダクトからも分かるように、端正かつミニマムなクリエーションを得意とする黒野さん。自らがデザインを生み出している職種ということもあり、服に施されているデザインに対してもユニークな考えを持っていました。

「アノニマスデザインと言いますか、[BIC(ビック)]のライターとか誰がデザインしたのかもわからないけど、ずっと身の回りに存在しているような馴染みのあるデザインが好きなこともあり、服に関してもデザイナーの作った意図が見えないデザインに惹かれます。なので、機能性や用途の意味しか持たず、ファッションの意味を含まないヴィンテージウエアの方が自分にはしっくりくるんですよね。『こんなデザインしました!』みたいにデザイナーの自我みたいなものが見えないものがいい。また、コンセプチュアルすぎると人の体に馴染んでいかないこともある。だから自分の作るものも、身近にあって体の感覚で覚えているものをデザインとして構築するのがテーマだったりします。」

そんな嗜好から集まったのは、ワイドストレートのデットストックのパンツ。黒野さんが「ただの布切れみたい」と言うように、タックやテーパードなどファッションとしてのディテールは皆無。それに惹かれたのはデザインに関する考えのほかにも、自身が物を作る上で重きを置いている“モノとの出会い方”にありました。

「おばあちゃんにもらったお菓子の缶が捨てられないとか、人の物への愛着って出会い方が大事だと思っています。そう考えると、デットストックは何十年もその辺の倉庫に眠っていたわけじゃないですか。それを古着屋の人が発見して、自分がそれを見つけて買うっていう一連のストーリーにグッときますよね。なので、今回作った[さざれ]の時計も、そういう出会い方をして欲しくて、ファウンダーの佐藤さんが『あえてオンラインでの販売をやらずに、この時計の良さを理解してくれるお店の店頭で売りたい』と話をされた時に、心から共感しました。ネットですぐ物が買える時代だからこそ“ここでしか出会えない”というストーリー性も大事ですよね。」

黒野さんがデザインに携わった[さざれ]の時計。“メイドイン・ジャパン”を徹底したこだわりのモノづくりについてはこちらをチェック。「何十年後に、アンティークの写真集に“2000年代の腕時計”ということで載ることができたら……」と黒野さん。

 

 

2.生まれて初めて買った写真集『6:30 a.m.』 Robert Weingarten著 / 定番歴:15年

著者でありフォトグラファーであるRobert Weingartenが、1年間、自宅の寝室から見えるサンタモニカの風景をほぼ同じ角度から撮影し、移りゆく時間を捉えた一冊。

自らがデザインしたプロダクトデザインに合わせて写真や映像も担当し総合的にプロデュースをする黒野さん。そこで表現されているのは、研ぎ澄まされた刹那的な世界観で、写真も映像も定点で撮影されることが多く“動”的動きを一切しない手法を徹底していました。その独特の作風に行き着いたきっかけは、デザインの勉強でパリに留学していた時に買ったという1冊の写真集に集約されているようにも思えます。

「この本は時間を変えて同じ場所から撮影をした写真を1冊にまとめたものなのですが、時間が違うだけで見える風景が全然違って面白いなと思いまして。視点をズラさず静止し続ける経験って日常にないじゃないですか。コルビジェの設計したサヴォア邸の屋上庭園の壁に開けられた四角い開口部だったり、写真家の杉本博司さんが小田原に作った、『江之浦測候所』の海が見えるトンネル『冬至光遥拝隧道』の世界観などもそうなのですが、日常の見慣れた風景を切り取ることで全然違うものに見えることがあって。限定することで新鮮に映るということがあると思います。
日常のちょっとした違いに敏感に気付ける人でいたいし、デジタルツールに囲まれている時代ですが、それらに頼りすぎて身体の感覚を見失わないためにも、たまにこの写真集を見返して初心に戻るようにしています」

これに限らず、プロダクトの作成期間中、迷った時に黒野さんが手にするのは他でもなく自宅に蒐集された写真集や作品集。多い時は月に20冊も購入することもあるそうで、そのような環境に身を置きながら日々クリエーションと向き合っているとのことでした。

「昔、学校の先生に『本は本棚にあるだけで自分のパワーになってデザインに反映される。だから買うことが大事』ということを言われたことがあり、ピンときたものは出来るだけ買うようにしています。それらを見て思うのは、時間軸とデザインは深く関わっていて、広告のデザインのように花火のような一瞬の大きな感動が必要なデザインもあるし、徐々に感動レベルが高まっていくデザインもある。プロダクトデザインはおそらく後者で、『今日もいい顔しているね』って毎日使われて、少しの感動が積み重なっていき、長い年月を一緒に過ごしたときに、感動レベルが花火と同じぐらいに達してくれたら嬉しいです。」


黒野真吾 / プロダクトデザイナー、アートディレクター
フランスでデザインを学んだ後、国内のデザイン事務所で経験を積み、独立。アートディレクション、プロダクト、グラフィック、WEBデザイン、映像や写真など、デザイン全般に従事。明るい笑顔とは裏腹に、寝ている時と酔っ払った時以外は常にデザインのことを考えているというストイックさも。
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