-グラフィックデザイナー MACCIU編- 連載「MY DOUBLE STANDARD」
edit&text_Marina Haga / photo_Erina Takahashi
ファッション関係者、アーティストなど、自らのスタイルを持つ人たちが、自分にとって欠かせない定番をファッションアイテムと雑貨から2つピックアップして紹介する新連載「MY DOUBLE STANDARD(マイ ダブル・スタンダード)」。第11回目は、ポストロックバンドtoeのアルバムジャケットの製作などでも知られるグラフィックデザイナー、MACCIU(マチュー)さんが登場です。
1.地域の商店街で買うのがこだわり。表地がダメになったら裏面にして着るロンT &スウェット / 定番歴 3年
MACCIUさんの見た目の特徴として挙げられるのが、妙にスッキリとした“抜け感”があるということ。この印象は彼女のユルいキャラクターや短髪のせいかと思いきや、「ほぼ毎日着ている」と言う襟ぐりのリブを切って “ノーカラー”に改造したトップスのせいでもありました。
「昔から身につけるものに対しては、ファッション性よりも自分の身体の形との相性や機能性を求める方だったので、既製品の機能的でないと思うパーツを自分で改造するクセがありました。なので服を脱色させたり切ったりしたりするのは日常茶飯事。ファッション的なデザインの知識は皆無なので、改造というより、ハサミとボンドしか使わない超簡単なDIYなんですが(笑)」
襟ぐりと裾のリブをハサミで切ることに加えて、更に衝撃的だったのは、よく見るとロンTの裏表が逆になっているということ。せっかく自分の身体に馴染んで来た頃に、洋服の表地が劣化して着れなくなってしまうのは勿体ないとのことで、気に入ったフォルムの洋服を着続けたいという思いから、この他にも10着以上のトップスが同じ状態で保管されていました。
「いつもリュックを背負っていることもあって、裾の部分が擦れてボロボロになってくるんですよね。この形と馴染んできた感じが心地よくてもっと着たいと思っていたんですが、ある時、『これ裏使えるやん』って思いつきまして。表地がダメになったタイミングで、裾のリブを解き、裏面にして着るようになりました」
「ファッションに機能を求める」と言うMACCIUさんですが、通常は加工技術やオプションをプラスして“機能”として作用させるものを、彼女の発想は真逆。トップスの他にも、“取れるディテールは取る”という考えのもと、襟とドローコード、チャックを外した最強にミニマムなミリタリージャケットがクローゼットにはラインナップ。この洋服に見られる趣向は、MACCIUさんの作品にも通ずるものがありました。
「自分の制作コンセプトにも、“削ぎ落としていく”ことが根底にあって、最小限の情報で提供できる普遍的な気持ちの良さが一体何なのかを常に考えています。ある程度書き込んだものから引いていく作業を繰り返して、一つの作品に仕上げるのですが、その作業と服の着方も自然と似てしまっているのかもしれませんね(笑)。作品は生活の投影なので。」
2.足し算の感覚を身体に覚えさせてくれた[Paso(パソ)]のリング / 定番歴2年
究極の引き算思考を持つMACCIUさんですが、もう一つのマイスタンダードとして教えてくれたのはプラスするアイテムとして“ミニマリズム”とは相反する位置にあるジュエリー。こちらは30歳を境に訪れた、彼女の作風にも共通する心境の変化から定番となったアイテムだそうです。
「30歳を過ぎた頃、自分の生活をワンステップ上げることが大事だなと思いまして。これまでは、アクセサリーはほぼ着けなかったんですが、“ライフスタイルをー、二段階上げたときに見える景色とか、そこから生まれる余裕”みたいなものを意識するようになって。これまで「装飾」という足し算の発想が自分に馴染まなくて、指輪やアクセサリーを着けたことがほとんどなかったんですが、[パソ]というジュエリーブランドからイラスト制作を依頼していただいたタイミングと自分の思考の変化し出した時期が重なったこともあり、それを機にリングを購入し、意識的に身に着ける習慣を取り入れてみたんです」
そんな行動の効果もあってか、ブランドから依頼されたショップカードのイラストのタッチにも思考の転換があったと言います。
「わりとこれまでの作品はニュートラルで、あまり性別を意識させないような演出をワザとすることが多かったのですが、デザイナー(川畑亜由美)さんが女性ということもあり、ジュエリー自体も男女ともに愛される形でありながら細やかな気配りが自然に現れているものばかりなので、珍しく自分の女性性を引き出してみたらブランドに合う絵ができるんじゃないかと思い表現を試みました。ブランドのアイテムはミニマルでありながら、人の手が加えられたような有機的なフォルムが特徴。なので線自体も均一ではなく、[パソ]のリングのような生きたライン、土臭さを演出しました。20代の頃は、全てにおいて言葉が先行していて、作品も自分が説明できないラインやフォルムを描くのが苦しかったのですが、とはいえ『言葉を超えるものこそ最強』という思いはずっとあって。まだまだですが、この歳になってようやくそれが自分に馴染み始めてきた気がします。」
MACCIU / 作家、グラフィックデザイナー “最小限の情報で提供できる普遍的な気持ちの良さの追究”というテーマのもと、作品提供は国内外を問わずメーカー、公共施設、書籍、TV番組、音楽業界など多岐に渡る。[NIKE]や「ANA」、「CASIO」などへのグラフィック提供から、NHKの番組タイトル制作、有名ミュージシャン、アパレルブランドなどとのコラボレーションまで様々。東京と地元・京都を拠点に活動。ゆったりとした口調の京都弁がチャーミング。 paxmacciu.com