職人の手跡の中に新たなミニマリズムを追求した時計[sazaré]とは?
パーツからプロセスまで “メイドイン・ジャパン”を徹底したモノ作りを解剖
edit&text_Marina Haga
一人ひとり違う時計選びの基準。宝飾品のように高級ウォッチを身に付けている人や、ライフスタイルに合う機能重視で選ぶ人、最近ではウェアラブルデバイス的立ち位置でスマートウォッチ派も増えています。 そんな多様化する時計の価値観を原点回帰させ、時を計る道具として装着する意義を考えさせてくれるブランド[sazaré(さざれ)]が、この冬デビュー。日本の国歌にもある、“さざれ石(こまやかな石)”をブランド名に冠しているように、職人の手によって作られた時計は、繊細で少し切なくなるような美しさが特徴です。 今回『エバーメイド』では、2年半以上の歳月をかけて完成されたという、匠の技が光るプロダクトを紐解きます。
デザインのベースとなったのは金属の残骸
新しい時計ブランド[さざれ]を立ち上げることになったのは今から約3年前。その時点ではまだ細かいコンセプトは決まってなかったとのことですが、「作るなら全てメイドイン・ジャパンでやりたい」という意思のもとプロジェクトが始動。しかしその日本製へのこだわりが、ここからの製作の行程を大きな困難に導いたとのことでした。
「世の中にはメイドイン・ジャパンの商品が意外と多いですが、実は、そのプロダクトの一部を日本で組み立てるだけで、メイドイン・ジャパンと謳えてしまえるんですよ。だけど僕たちはすべてをメイドイン・ジャパンで作りたかったので、そこはストイックにこだわりました。今は、製造工場を海外に置くことが多くなったので、日本にある時計の製造技術を持った工場を探すのが大変でしたね」(ディレクター 佐藤佳史さん)
やっとのことで日本国内に工場を見つけると、そこで目にしたのが金属版から撃ち抜かれた丸みのある残骸。縁にかけて緩やかに落ちていくカーブの美しさに惹かれ、時計のフェイスのイメージソースにしようと決めたのが、デザイナーの黒野真吾さん。
時計のケース部分は「冷間鍛造」と言われる成型方法を採用。金型でプレス、焼きなまし、プレス、再度焼きなまし……、という工程を何度も繰り返して形成していきます。完成に至るまでに、30以上の工程を複数の工場で行なっており、この話を聞くだけでも壮大なプロセスを踏んで1本の時計が完成しているということが伺えます。
他にもシープスキンを使ったベルトや、ガラス部分など各パーツの製造過程ごとに幾多のエピソードがあり、先ほどのプロセスはほんの一部。
そうして出来上がったのが、日本のクラフトマンシップが凝縮されたこちらの一本。華美な装飾を削ぎ落としたミニマルなデザインは、細かな部分がすべて計算されて作られており、そのデザインは全て理由が語れるものになっています。
冒頭のインスピレーションソースである金属の膨らみを再現するために、ガラスを複合Rに削り、ケースへとシームレスに結合。文字盤はそこに合わせて、よく見るとわずかに膨らみがあるように設計されています。通常、腕時計には表のフェイスにブランド名が刻印されていますが、[さざれ]では“時計=道具”というコンセプトを再現するため、あえて入れていないのだとか。
「“ミニマル”と いうとツンとして無機質な印象ですが、10分の1mm単位でディテールに微細な変化をつけることで、シンプルながら愛嬌のある表情を意識しました」(デザイナー 黒野真吾さん)
多くの時計のウラ蓋には、使用中の傷が目立たないようにヘアライン加工が施されていますが、「擦り傷のついたステンレスは美しい」というスティーブ・ジョブズの言葉からインスピレーションを受けて、ピカピカに研磨。ともに時を刻んでいくうちに出来るウラ蓋の傷を個性と捉えるからこそ愛着が湧いてくるという、コンセプチュアルなデザインが反映されています。
ミニマルな外観でありながら、人の手によって実現された微細なふくらみや曲線が、プロダクトに温かみをもたらし親しみを感じる[sazaré(さざれ)]の時計。手作業であるがゆえ大量生産が困難ということですが、プロダクトの生産背景にも惹かれた人は手に取ってみては。
エスケー01ブラックホーニングフィニッシュ
エスケー01ブラックミラーフィニッシュ
エスケー01シルバーホーニングフィニッシュ
エスケー01シルバーミラーフィニッシュ
取り扱い:Need Supply Co.、JOURNAL STANDARD SQUARE
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