“原宿で最も辿り着きにくい店”
南貴之に聞く、グラフペーパーの現在
“僕は海外に服は探しに行っていないんです。でもね、服以外はあったんです。”
EM : 今回のリニューアルもそうですけど、南さんは常に前に進むというか、次々と新しいことをされますよね。「ヒビヤ セントラル マーケット」もそうだし、プレスルームになぜか昔風の「喫茶室」を作っちゃうとか(笑)。そういう原動力はどこから来るんですか?
南 : 多動症なんですかね(笑)。飽き性とも言えるし。
EM : かなり以前にインタビューさせていただいた時って、セレクトに関しては海外に行かず、ほぼ国内でやっているとおっしゃっていました。「良いものはだいたい日本で手に入っちゃうから」と。でも最近は激しく海外と国内あちこちを行き来しています。その変化の理由は?
南 : 僕は海外に服は探しに行っていないんです。でもね、服以外はあったんです。洋服の展示会ってどこかトリートメントされてますよね。価格も決まってて、絵型があってと、基本は同じ。ヴィンテージとか古いものは、日本では手に入らないし高いんですが、僕が行っている骨董市やマーケットって、その場が勝負です。500と言っているのを200に下げたり(笑)。僕も目が利かないといけないし、偽物つかまされたこともある。でも、「これは凄い!」というものにも出会う。それがもうたまらないんですよ。バイイングとはこうあるべき、って感じですね。e-bayだとかインターネットでもいろいろありますけど、僕は全く信用していないです。
EM : やっぱりある程度目的を持って探しに行くわけですよね。
南 : いや、ああいうものって目的はあっても、結局は“出会い”で。買いに行って買えるものじゃないので、一日中動きまくってとにかく探すという。それがもう楽しくてしょうがない。アメリカとフランスが多かったですけど、今度はパリ以外のヨーロッパをぐるっと回ってこようと思っています。
“インターネットが世界中に繋がった瞬間から、あらゆるものは並列化されている。”
EM : 今の日本にはかなりのモノがありますよね。そういう中で、“モノ疲れ”している人も多い気がします。断捨離じゃないですけど、そんなにモノは要らないと言う人も増えています。
南 : うーん。結局モノの見方って、視点を変えると途端に面白くなったりするじゃないですか。僕はそういう領域になっているのかな。見つけることと伝えることが一体になっているというか。例えば今回のリニューアルでも奥をわざと工事中の状態にしているんですけど。
EM : これには驚きました。
南 : 僕はいつもお店を作っている時に、「この途中の状態がかっこいいのにな」と思っていたんで、今回それをやってみたんですけど、もちろんこれを好きな人も嫌いな人もいると思います。で、僕はそういう中で新しいものや、きちんと作られたものを並列させて対比させるのが好きで。何でもかんでも“並列”でいいじゃんという考え方。
EM : と言いますと?
南 : ファッションが好き、雑貨が好き、作家ものが好き、新しいものが好き、古いものが好き。何でもいいんですけど、それを同じ列に並べて、「ここに何か違いはありますか?」と。
EM : ああ、分かりました。それには共感しますね。『エバーメイド』でも、ファッションも雑貨も食もインテリアも出来るだけ同じ目線で見ていただきたいと思っていて。
南 : だから僕も、「インテリアの人はインテリア」、「音楽の人は音楽」、みたいなことってくだらないなって思って。だってインターネットが世界中に繋がった瞬間から、あらゆるものは並列化されているわけですから。
EM : いやあ、本当にそうですね。
南 : それを体現しているお店って少ないなと思ったんです。高いクオリティのものを同じ空間に共存させているお店に出会ったことがなかったので、それがこのお店で最初からやりたいことでした。モノの多さでもないし、安さをウリにしているわけでもないという。
EM : そして南さんが面白いのは、「FreshService(フレッシュサービス)」みたいな別の業態でも、もっとマスプロダクト的なものにも目線があるということです。
南 : 例えば僕がバイイングしかしてこなかったらこういう考え方になっていないかもしれない。家具とか高いものしか好きじゃなかったら、逆にこうはなっていないかもしれない。自分のチャンネルの中にあるのは服だけじゃないし。だから単純に正直なんだと思います。とは言え、居酒屋で飲むのが好きだけど、それをここで一緒くたにはしないというか。
EM : なるほど。ちょっとセンス間違えば、この店の中にもっとカオスなものを入れちゃったりするわけですよね。でもそうはせずに、共存と分け方のセンスが……、いやそう考えると改めて凄い。
南 : 昔、表参道に「同潤会アパート」ってあったじゃないですか。今はもう形も何も変わっちゃってますけど、ああいう場所の感覚なんですよね、ここは。あそこって、お金はなくてもやりたいことがある人が集まっていたような場所で、洋服屋だったりカフェみたいな店だったり、変なものがいっぱいあったじゃないですか。僕はそういう場所こそ面白いと思って行っていたクチだったので、そうして見てきたものをここで作っているような感覚かもしれないですね。
来シーズン着れないものを作りたくない。
EM : ご存知と思いますが、『エバーメイド』的には定番、新定番をテーマにしているんです。南さんは新定番になるものってどういうものだと思いますか? ちなみにファッションの中にはあまり“定番”と呼ばれるのが好きじゃない人もいることが最近分かってきたりもしたんですけど。
南 : 極論ですけど、男に“ファッション”って、そんなに必要ないと思っているんですよ。常に同じ服だっていいんです。で、“その一着が何なのか”という話で。だから僕は[Graphpaper]ではそれを作ろうとしているだけなんですよね。それくらい“込めて”定番ものは作っていますから。例えばデザイナーズブランドで買ったものがすごく気に入って、来シーズン買おうと思ったら売ってないってことってあるじゃないですか。それ、ホントに嫌なんですよ。だから僕が作っているものでは、できるだけそれをやりたくない。
EM : わかります。
南 : 僕は毎シーズン自分のブランドの白いTシャツを買い続けているんですけど、ヘタらないと言ったって使い続ければヘタるし、汚れます。だから来シーズンも買いたいと僕みたいに思う人のために作っているところはあるんです。そういうブランドもあっていいだろうと。
EM : あとは着ていて「それ2017SSのどこどこの服ですよね」とか指摘されるのも恥ずかしいですよね。そこに他意はなかったとしても。
南 : そうそう。どこの服なのか分からないくらいでもいいというか、やっぱり“服”よりも“人”の方が前に出ていて欲しいんです。いや、今回は本当にお店の話が中心でしたけど、今度はブランドとしての[Graphpaper]について、『エバーメイド』でじっくりお話したいですよ。どれだけ定番ということにこだわっているか、それはもう、たっぷり話せることがあるんで。
南貴之 alpha co.ltd. 代表(クリエイティブディレクター) 1996年にH.P.FRANCE グループに入社し、「cannabis」、「FACTORY」、「sleeping forest」 を立ち上げる。2008年に独立し、現在の基盤となるalphaを立ち上げ、「1LDK」の総合ディレクターに就任。退任後の2013年にアタッシュドプレス「alpha PR」を立ち上げる。同じく2013年に「FreshService」をスタートし、2015年にギャラリーとしての機能を持つキュレーション型ショップ「Graphpaper」をオープン。2018年には東京ミッドタウン日比谷の中に「ヒビヤ セントラル マーケット」をオープンさせるなど、活躍の幅を広げ続けている。
《編集後記》
『エバーメイド』立ち上げの際に[フレッシュサービス]についてお聞きしたアルファの南貴之さんを再インタビュー。いつもお話するたびに発見のある方ですが、今回ドキっとしたのは「インターネットが世界中に繋がった瞬間から、あらゆるものは並列化されている」という言葉でした。本当にそうだなあと。だからこそ実体としての「グラフペーパー」みたいなお店が求められているんだと思いました。本当に行くのは大変だけど(笑)(武井)