連載「新・定番論」
Vol.3 LOWERCASE 梶原由景 編
[梶原由景 新定番の3品]
“日常的に、気兼ねなくガシガシ使えることを重視しています”
この企画では「定番」と「新定番」を出してもらうことにしていますが、梶原さんの中ではあまり「定番」と「新定番」の区別はないそうです。それでも常に世間にアンテナを張りながら、自分にとっての良いものを探し続けているのが梶原さん。ここからは比較的最近使うことが多くなったという3品を教えてもらいます。
「新定番というのは結局時代に即したものということだと思いますが、自分が使う上では、価格も含めて気兼ねなくガシガシ使えることを重視しています」
その1 [セイコー]の「プロスペックス」
“自分でプロデュースしたものだけど、飽きずに使っています。”
[セイコー]から梶原さんに「ファッションシーンにも溶け込む腕時計をプロデュースして欲しい」というオファーがあったのは約4年前。その前に時計についてもっと体感的に知っておこうと、これまでそれほど執着はなかった[ロレックス]を自ら数本購入し、その良さを知ろうとしたという話は前述しましたが、その研究姿勢が表れたのがこちらの[セイコー]の「PROSPEX(プロスペックス)」シリーズ。
「やっぱり身に着けるものを身に着けないで、資料だけで考えるのは難しいし、説得力がないので。それで分かったのは、[ロレックス]にあって[セイコー]になかったのは、“ベーシックさ”でした。[セイコー]としてのスペックやルールがあるので、それをなるべくかいくぐって、スタンダードなものにするバランスが難しかったです」
こちらの最新モデルで4作目になりますが、毎回すぐに完売になるそうです。
「誰も予想していなかったんですが(笑)、最初に出したモデルは、ネットでは5分で完売したんです。価格も4万円くらいなのにこのクオリティは、さすが[セイコー]といったところで、お買い得感があるものに仕上がっています。細かい部分まで口を出させてもらったのもあって、僕的にはスポーツウォッチはこのモデルで十分。自分でプロデュースしたものは、作ってしばらくすると飽きてしまったりするのですが、このシリーズに関しては飽きずに使っているので、新定番のひとつですね」
その2 [J.Crew]のボタンダウン・シャツ
“僕にとって白のボタンダウンは消耗品。だから及第点でいいんです。”
かつて梶原さんは自分の私物を100点紹介した『The Essential Things 100』という本を上梓し、その中で[Brooks Brothers(ブルックス ブラザーズ)]のボタンダウン・シャツ愛を語っていたのですが、最近では全て手放し、現在は[J.Crew(Jクルー)]のボタンダウン・シャツをリピート買いするように。
「当時[ブルックス ブラザーズ]のシャツは『一生着るだろうな』と思っていたんですけど、こういうカジュアルな着方をした時に、クラシック過ぎるように感じてきたんです。ほとんど毎日白いシャツを着ているんで、自分のサイズも分かって、どんどん取り替えのできるものが欲しかったんですけど、たまたまアメリカの[Jクルー]で買ったら、クラシックサイズのLかスリムのXLがちょうど良かった。日本で買うと高いので、ニューヨークに行った時にまとめて買いです」
梶原さんは白シャツに関しては、こだわりもありつつ、毎日袖を通すものなので、消耗品として優れたものを探していたそうです。
「[THOM BROWNE(トム ブラウン)]のシャツもそりゃいいですけど、ガシガシ着るようなものじゃないし、日本のブランドが真面目に作りすぎると品が良くなっちゃう。僕にとって白のボタンダウンは消耗品なので、“及第点”でいいんです。日本で買うとちょっと高いけど、アメリカなら7〜8000円くらいで買えますよ。それにアメリカってこういう定番でも突然安くなったりするし、行くたびに買っていて、今は10枚くらい持っていますね」
その3 [SONOS]のスピーカー
“このサイズと価格でこの音質は衝撃でした。”
デジタルガジェットやデバイスにも詳しく、日々進化するスピーカーなども試し続けてきたという梶原さん。その中で数年前にアメリカで出会った[SONOS(ソノス)]のスピーカーは、このサイズと価格とは思えないクオリティに衝撃を受けて、現在では愛用品になっているそうです。
「前は[BOSE]とか色々試していたんですけど、これを聴いたらもう戻れないですね。日本にローンチしたのが今年の夏ですが、数年前にニューヨークに行った時に[エンジニアドガーメンツ]の鈴木大器さんの友人が向こうのマーケティングディレクターだったこともあり、SOHOのショールームに遊びに行ったんです。その帰りに一台いただいたんですが、持って帰って聴いたらすごい良くて。ブルックリンあたりの小さなお店は、これだけ置いてお店でガンガン鳴らしていますよ」
その音のクオリティの理由を知るために、その後、2018年の夏に日本でもローンチイベントにも足を運んだという梶原さんは、その音の秘密を知ることに。
「[ソノス]は音のチューニングを、プロのレコーディングエンジニアがやっていると聞いて納得しました。オーディオメーカーのプロではなくて、プロの音作りのレベルでやっているので、スペックじゃなくて結果重視なんですよね。日本に来たらこれは新定番になるなと思っていましたし、今後も浸透するんじゃないですか」
[梶原由景にとって、“定番”とは?]
最後に梶原さんに、「ご自身にとっての定番とは?」という質問をぶつけてみました。
“若い頃は定番と言われるものを知って、それを買って使うことが楽しみでした。でも色々と買い続けるうちに、それは「権威」ではなくて、ガシガシずっと使いたいものに変わって来ました。あとはアップデートできる余地があるもの。変わらないことにも価値があるけど、変わっていける余地があるものにも価値があると思います”
梶原由景(Yoshikage Kajiwara) クリエイティブ・コンサルティングファーム「LOWERCASE」代表。ビームスのクリエイティブディレクターとして活躍し、異業種コラボの元祖的存在として様々な企業、ブランドと画期的なプロジェクトに取り組みセレクトショップを再定義。現在はブランディングやコンサルテーションを多く手掛ける一方、吉田カバンの[PORTER]や、[SEIKO]の「PRPSPEX」などコラボレーションやプロデュースワークを行う。2015年11月には藤原ヒロシさんとコンテンツサイト「Ring of Colour」を立ち上げて、記事も公開中。
《編集後記》
以前より何度か取材させていただいたことのある梶原さん。冒頭にも書いた通り、ちょっと(時には記事化の難しいほど 笑)毒舌交じりのお話がいつも面白い方です。直接聞くお話やSNS、他メディアでの発信を拝見していて思うのは、梶原さんはモノに対して厳しい目を持っているからこそ、リコメンドされるものに信頼性があるということ。だからこそコンサルティングやブランディングのお話が多いのだろうと思いますし、今回の「新・定番論」も参考になるものばかりでした。(武井)
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