FreshService® headquarters
で見つける10の新定番
東京・千駄ヶ谷の路地奥の新名所で選ぶ新定番
クリエイティブディレクター・南貴之さん インタビュー
edit&text_Yukihisa Takei / photo_Yasuyuki Takaki
“何十年、何百年超えているものは、その淘汰を超えてきているので、それだけで商品の価値があると思う”
コンセプトは架空の運送会社
2018年3月にオープンした大型商業施設「東京ミッドタウン 日比谷」に、有隣堂とタッグを組んで複合型のフロア「日比谷セントラルマーケット」をプロデュースしたalpha.co.ltd.の南貴之(みなみ たかゆき)さん。数々のファッションブランドのブランディングやPR、空間プロデュースを手がける南さんの、言わばソロプロジェクトの一つが、“モバイル型コンセプトストア”の「FreshService®(フレッシュサービス)」です。
もともとは2013年に「ザ・コンランショップ」の依頼でポップアップショップの形でスタートしたこのプロジェクトはマイペースに拡大を続け、2016年に名古屋に「FreshService® STOCKROOM」を、そして今年4月に東京・千駄ケ谷の路地奥に「FreshService® headquarters」をオープンしました。
「当時は“セレクト型のポップアップショップ”というのが他を見回してもなかったので、それをやってみようというところがスタートでした。現場までダンボールでモノを送って、そこがそのままお店になるようなイメージですね。FreshService®は“架空の運送会社”がテーマで、名古屋のショップはその“営業所”のようなイメージだったのですが、この千駄ケ谷のお店が本店になるので、“本社”よりも先に営業所の方ができてしまったという(笑)」
男の服は“道具的”
南さんといえば、トレンドは押さえつつ、ベーシックで清潔感あるファッション・プロダクトを多数紹介してきた人物。それはもう一つのプロジェクト「Graphpaper(グラフペーパー)」のオリジナルアイテムやセレクトでも活かされていますが、この「FreshService®」では日用品を中心に、さらに南さん自身のプライベートな視点で集められたプロダクトが展開されています。
「ここのお店はギャラリーをコンセプトにしている『Graphpaper』のように、あんまりガチガチなものではないし、向こうのお店の方が洋服関係が多いんですよ。近年、僕の中で洋服以外のものの(把握)範囲が広がってきたというのもあるし、僕自身がもともとそういうものが好きなんですよね。だから『FreshService®』に置いてあるのはインテリアとか家具、日用品が多い。服もありますけど、男の服って“道具”みたいな感覚のところがあるので、この店ではそういう“プロダクト的な考え方の服”を置いているというか」
コンパクトな店内には、家具やステーショナリー、食器類、コーヒーメーカー、置き物、そしてベーシックな洋服など、さまざまなモノが陳列されていて、ジャンルも生産国もバラバラ。にもかかわらず、どこかに統一感があるのがこのお店の不思議なところです。
「日本、ドイツ、メキシコ、アメリカ、イギリスもフランスもあるし、アフリカのものもあります。国縛りのお店は他所にいっぱいあるし、僕はヘンに区切りたくない。統一感が有るとすれば、『僕が好きなものであること』だけでしょうね。僕自身が使ってみて良かったから、『これ、どうですか?』みたいな感じなんです。いいものを見つけたら、やっぱり人に教えたくなるじゃないですか」
このお店に置いてあるものは、オリジナル商品もセレクト品も含めて継続品ばかり。買い足しやリピート買いができるものが多いのも「FreshService®」の特徴です。
「継続品の魅力は『無くならないこと』ですよね。例えばすごく気に入っているものが、次買おうとしても手に入らなくなることってありますよね。次のシーズンは展開されないとか、色や素材が変わっちゃうとか。自然界と同じで、色んな意見や事情を踏まえてプロダクトも淘汰されていくものだと思うのですけど、やっぱり何十年、何百年超えているものはその淘汰を超えてきているので、それだけでその商品の価値があると思うんです」
こうした考え方は、オリジナル商品にも踏襲されていると南さんは言います。
「自分たちで作り出すものでもそうありたいと思っています。そのうち要らなくなってしまうものを作るくらいなら、作る必要はないですから。僕らはメーカーではないので、それを専門にしている会社とタッグを組んで作るものが多いのですが、そこに『もうちょっとこうだったら』とか、デザインや仕様に慎重にアレンジを加えつつ、気に入ったらいつでも買ってもらえるように継続していますし、実際リピート買いの人も増えています」
既存の製品に新しい価値を見出す
「FreshService®」における南さんのセレクトセンスを物語るものとして、日本国内のメーカーが長年作り続けているものに改めてフォーカスを当てたプロダクトがあります。
「例えば[Cellarmate(セラーメイト)]の密封瓶は、日本のメーカーが昭和の時代から作り続けているもので、金物屋さんとか、どこに行っても買えるものだと思います。僕的にはこういう“つっけんどん”なデザインでありつつ機能的なものに惹かれるんです。昔はお米とか、梅酒を漬けておくことが多かったと思うのですが、今だったらコーヒー豆とかを保存するのに使えたりする。同じものなのに時代によって入れる中身が変わるのって何かいいですよね。日常で使うものなので、できる限り安くて、使い勝手も良くて、デザインもいいものだったらさらに嬉しい。壊れても買い換えられますから」
最後に南さんに、「定番になるものの条件」について聞いてみました。
「やっぱり“シンプル”なものなんだろうなって。それはデザインだけの問題じゃなくて、考え方や作る工程、それがそういう形になるという理屈までもがシンプル。理にかなっているというか。だからこそ作る側と買う側の間にもコンセンサスが生まれるし、それが結果的に定番になるものじゃないですかね」
東京都渋谷区神宮前2-13-14ベルナール青山1F
TEL : 03-5775-4755
営業時間 : 12:00 – 19:00(水曜定休)
http://freshservice.jp
南 貴之(Takayuki Minami) alpha co.ltd. 代表(クリエイティブディレクター) 1977年にH.P.FRANCE グループに入社し、「cannnabis 原宿」、「FACTORY」、「sleeping forest」 を立ち上げる。2008年に独立し、alpha.co.ltdを設立。2009年に「1LDK」中目黒の総合ディレクターに就任。退任後の2013年にアタッシュドプレス「alpha PR」を立ち上げる。2013年に「FreshService®」をスタートし、2015年に「Graphpaper」を立ち上げる。2018年には東京ミッドタウン日比谷の中に「日比谷セントラルマーケット」をプロデュースするなど、活躍の幅を広げ続けている。
《編集後記》
インタビュー中にもありましたが、南さんのセレクトの魅力は、国やジャンルになどに絞られない、「自分の目線」であることでしょう。もちろん「ブリティッシュ」「パリ好き」などで統一感のあるスタイルを築くことも素敵ですが、そうした枠を定めずとも統一感があるところが逆にとても“日本的”と言えます。日本は国内外の面白いものを貪欲に取り入れて来たことで、これだけ多様性のあるセンスを持ち得た国。FreshService®のお店に行くと、その感覚を少し体感できます。(武井)