“実体験からしか生まれない圧倒的な服”
TEATORA(テアトラ)デザイナー
上出大輔インタビュー
実体験をもとに創られる“圧倒的”で役に立つ服
インタビュー中、上出さんから頻出したのがこの“圧倒的な”というキーワードです。“圧倒的”というのは、インパクトの強さや豪華さの意味ではなく、あらゆる側面で高い実用性を持っていることを指しています。
「1型集中という開発方法は開発費、開発期間において社運を賭けるに等しく、とてもハイリスクです。どうせ人生を賭けるなら、仲間や自分が尊敬する人たちの役に立つ服を作りたいと考えたのがテアトラの始まりです。テアトラでは機能やコンセプトをデザインするにあたり、自らが実体験をしなくてはデザインしてはいけない、というルールを設けています。予想や憶測で作られたものでは役に立たないからです」
上出さんの言う“実体験が生み出す物づくり”とは、逆説的に言えば「雪山に登ったことのない人間からは雪山のためのギアは生まれない。飛行機のファーストクラスに乗ったことがなければ、ファーストクラスの座席設計はできない」という考え方。[テアトラ]の場合は、上出さん自身が実際にさまざまな働き方に身を置いて、違和感やストレスをリアルに体験することで「これは絶対に必要だ」と言い切れる確信を持つことからスタートしているといいます。
たとえば[テアトラ]が独自に作成している「ギアチャート」で、ひとつのレンジである「SOLOMODULE(ソロモジュール)」では、「①長時間のフライトのストレスをキャンセルする、②フルフラットシートのような快適さを追求する」ために、上出さん自身が飛行機のファースト、ビジネス、エコノミークラスを交互に何回も乗り分けることで「最大のストレスとリラックスを体験」して、開発前の検証や実証テストを行っているそうです。
ファッションの世界では「○○からインスピレーションを得て」というキーワードが頻出しますが、[テアトラ]の開発には「“知っているとか、見たことあるとか、僕も同じことを考えていた”ではデザインしてはいけない」という上出さん独自の哲学が反映されています。
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