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ファッションと“サステナブル”
MARKAWAREデザイナー
石川俊介インタビュー

インディペンデントな日本ブランド[MARKAWARE(マーカウェア)]のデザイナー・石川俊介さんに聞く、これからのファッションが考えるべき“サステナブル”について。

edit&text_Yukihisa Takei / photo_Kiyotaka Hatanaka(portrait)/ Shunsuke Ishikawa(MARKAWARE) / cooperation MARKAWARE

最近あらゆる場面で「サステナブル」や「サステナビリティ」という言葉を聞くようになりました。「サステナブル(sustainable)」とは「環境に配慮をしながら、持続可能な産業であること」を指し、「エコロジー」や「エシカル」とも並んで使われるキーワード。近年では大企業も「サステナブルなこと」に対する意識が高まり、実際にスローガン的に掲げるところも増えています。

ところで、そもそも「サステナブル」とは何なのか? その定義にも曖昧な印象を持っている人も多いはず。そこで今回は、「サステナブルな物作り」を早い時期から意識し、具体的行動を続けているインディペンデントな日本のファッションブランド、[マーカウェア]のデザイナー・石川俊介さんに話を聞きました。

 食に比べて、ファッションは遅れている?

“自分の本業であるファッションでは、出来ていないことが多いじゃないかと気づいたんです”

[マーカウェア]のデザイナー、石川俊介さん。2009年に[マーカウェア]をスタート。

[マーカウェア]のデザイナー・石川俊介さんの中で“サステナブル”に対する意識がより高まったのは、ここ5年ほどのことだと言います。

「2003年の[marka(マーカ)]立ち上げから、ずっとメイドインジャパンの物作りを掲げて来て、少しずつそういう取り組みは始めていたんです。もちろん、ただ『メイドインジャパンだから』と買ってくれる人は多くなかったですし、まずはモノとして気に入ってもらえないと始まらないというのは前提です。具体的なきっかけになったのは、僕が食べることが好きだったのもあって、2012年にコーヒーとチョコレートの店を立ち上げたことです。事情があって1年も経たずに閉めてしまったのですが、食の世界って、そういうことに対する考え方が進んでいますよね。サードウェイブの影響もあって、オーガニックやフェアトレードのコーヒーなども一般化しています。その時に気づいたのは、『自分の本業であるファッションでは、自分はまだまだ出来ていないことが多いじゃないか』ということでした」

[マーカウェア]が知られているのは、ブランド立ち上げ当初から評価の高かったミリタリーやワークを現代的に表現したプロダクト。マニアックなディティールを追求しつつも、時代感に合わせたアウトプットがストリートを刺激してきました。

「個人的にはミリタリーファッション好きで、そこから自分の洋服作りがスタートしたようなものなのですが、どうしても自分の中で芽生えてきたサステナブルな考え方と物作りが合致しなかったんですね。例えばナイロンのアイテムもいっぱい作っていましたし。そこでまず[マーカウェア]に関しては、すべてオーガニックコットンやオーガニックウールなどに切り替えて行ったんです」

アルゼンチンのオーガニックウールの工場。石川さんは原料視察と調達のために何度か足を運んでいる。(撮影 : 石川さん)

そうして行動を移す中で石川さんは、食の世界に比べてファッション界のサステナブルに対する考え方は「大幅に遅れている」と気づいたそうです。

「食の世界がなぜ進んでいるかというと、そもそも購入頻度が高いからだと思います。毎日買って食べるものだから、自ずと意識も高くなりますし。食の世界ではそういう考えは70年代くらいから広がってきていて、いま世界のベストレストランに選ばれるようなところは、とにかく食材にこだわります。自分たちで農場を持ったりもするし、日本でも美味しい寿司職人は自分で漁船に乗ったりもしています。アメリカの少しレベルの高いスーパーに行けば分かりますけど、厳しい基準の中で等級分けされたオーガニックフードがずらーっと並んでいますから。それに比べるとファッションの世界は、まだまだ遅れていると思います」

確かに日本でも自然派食品の店は増えているものの、まだ一般的ではなく、さらにファッションの世界では、そうした意識を持っているブランドは非常に限られています。

「[patagonia(パタゴニア)]をはじめ[NIKE(ナイキ)]など海外の大手企業は以前から熱心に取り組んでいます。そういう会社では社員に至るまで意識は浸透していますが、日本の大企業の多くはまだ“お題目だけ”の部分もありますし、実際にそういうコンベンションに参加している繊維関連企業は海外と比較にならないくらい少ないです。欧米の企業、中国の企業がずらっと名を連ねる中で、日本からはほんの数社ですから。で、なぜ世界中の企業がそうしているかというと、そこにまた“商機”を見出しているからなんです」

 カウンターカルチャーとしてのサステナブル 

“「オーガニックコットンだから肌に優しい」わけではないんです”

ちなみにここまで読んでいただいた方は、ファッションにおける“オーガニック”や“サステナブル”について、どんな印象を持っているでしょうか。どこか「オーガニック=ほっこり」のようなイメージが浸透している側面もあり、石川さんもその点を懸念しています。

「最近ファッション業界は、少し『なんかオーガニックって言うの恥ずかしくない?』という空気になってしまっていますよね。僕も合成繊維には合成繊維の良さがあることも知っているし、スポーツやアウトドアの世界では、その機能素材をあえて天然素材に置き換える必要はないと思います。また、『オーガニックコットンだから肌に優しい』というのも信じていません。農薬を使って栽培していたとしても、製品になってからも残留農薬が肌に影響するということは考えにくい。僕はそれよりも、環境に与える負荷の側面から、農業としてやるべきではないという考え方です。僕の中では、農薬を使ったり環境に負荷を与えるようなものを“体制側”と考えるなら、“オーガニック”や“サステナブル”は、カウンターカルチャーだと思うんです。もともと音楽やファッションは反体制な根っこを持っていて、僕の服作りもそういうところが原点です。だからもっとファッションの人は、これをカウンターカルチャーとして見た方がいいと思うんです。たとえばサードウェイブコーヒーのカルチャーの中で、腕にタトゥーが入った髭面の人がフェアトレードについて語っているように」

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