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下町の新名店「スキマ 合羽橋」から考える
[エンダースキーマ]のフィロソフィー

刻印のパーソナライズ・オプションも。

[エンダースキーマ]の新店舗は、食関係の道具街・合羽橋エリアにオープン。

edit&text_Yukihisa Takei photo_Ko Tsuchiya

テクノロジーが変えた店のあり方

オンラインショッピングが当たり前になり、以前より実店舗に足を運ばなくなったという人も多くなりました。その是非や好き嫌いは個人で分かれるところですが、その一方で、実際に店舗に行かないと味わえない感覚やサービスを重視するショップも増えています。

人通りが多い場所よりも、少し行きにくいエリアや判りにくい場所に出店する“デスティネーション・ストア(=目的地となるお店)”も増え、それまではあまりファッションのショップを出すことが考えられなかったようなエリアや、普通に歩いていたらなかなか見つけられない場所に洗練された店舗が生まれています。「遠くても、見つけにくくても成立するお店」、これもマップアプリやSNSの普及が後押しをしていると考えると、テクノロジーの進化は「行く必然性がないお店を淘汰」し、「これまでとは違う店の楽しみ方を提示するようになった」とも言えます。

今回紹介する[Hender Scheme(エンダースキーマ)]の新たなショップ「スキマ 合羽橋」も、この時代の中で新しいショップのあり方を体現しています。

ついでに寄るか、目的地にするか

田原町の倉庫跡地に出来た「スキマ 合羽橋」の外観。入り口には工場などで使うようなビニールのカーテンが目印。

店名にもなっている浅草の「合羽橋(かっぱばし)」というエリアは、近年ではその精緻な「食品サンプル」が訪日観光客の間でも人気となりましたが、主に料理人や食に携わる人が足を運ぶ、調理器具などの問屋街として知られています。

駅で言えば東京メトロ銀座線の田原町駅が近く、古い街並みと生活、そして中小企業の事務所などの多いこの下町・浅草エリアには“ファッション”感はほぼ皆無。その合羽橋商店街からさらに少し離れ、裏通りに一本入った筋にあった倉庫の跡地に「スキマ 合羽橋」はオープンしました。

ショップのサインも小さく控えめ。

このショップは同ブランドの2店目の直営店。1号店の「スキマ 恵比寿」も自動車の部品工場の跡地にオープンしたので、そこに流れる一貫性は感じますが、ファッションエリアと言える恵比寿と浅草を比較すると、そこには普段のお買い物のついでに寄るか(=恵比寿)、その店に行くこと自体を目的にするか(=合羽橋)という違いがあります。

[エンダースキーマ]というブランド

東京のインディペンデントなシューズメイカーとして2010年に誕生した[エンダースキーマ]は、さまざまなブランドの名品スニーカーのデザインをオールレザーでリデザインするという「mip」シリーズで名を馳せました。誰もが見覚えのある定番スニーカーが、無垢のレザーで、なおかつ誰が見てもハイレベルな製靴技術によって“二次創作”されていることは、ファッション界と靴業界を驚かせました。

[エンダースキーマ]の名を世間に知らしめた「mip」シリーズ。「スキマ 合羽橋」にはこれまでの同シリーズにおけるナチュラルの色味のみが展示販売されています。

「変わったことを始めたブランドがある」と話題になる一方で、そのイメージが付き過ぎた部分もありましたが、「mip」シリーズは[エンダースキーマ]というブランドのクリエイティビティの一端でしかありませんでした。まるで靴を再発明するかのように、シーズンごとに発表されるオリジナルの新作のクオリティが徐々に評価を受け、「ドーバーストリートマーケット」をはじめとするセレクト眼厳しい国内外のショップの取り扱いも増えるようになります。また[sacai(サカイ)]など、その実力を評価するブランドとのコラボレーションも増え、東京を代表するシューズブランドにも目されるようになりました。

[エンダースキーマ]のオリジナルシリーズの一部。「スキマ 合羽橋」では、数シーズンを経て定番化したモデルを中心に取り扱っている。

赤ちゃんが最初に履くサイズに作られた革靴はプレゼントなどでも大好評。

広がったプロダクトレンジ

近年の[エンダースキーマ]は、もはや“シューズブランド”とは呼べないようなプロダクトレンジの広がりを見せています。[エンダースキーマ]をあまり知らずに「スキマ 合羽橋」のお店に足を踏み入れればそれは一目瞭然で、靴はあくまでブランドの世界観の一部であるかのように小物が数多く並んでいます。住宅街の倉庫の跡地という比較的広い店内には、バッグや革小物の占める面積の方が多く、そのほとんどがレザーを駆使したものであることを考えれば、今では“レザープロダクトブランド”という表現の方がしっくり来ます。

カウンターに並ぶのは刻印オプションが可能なアイテム。

さらに[エンダースキーマ]を語る上で忘れてはならないのは、製品のほとんどが日本、特に東京の革職人の手を経て作られているということです。「mip」シリーズも、かなり斬新なデザインのシューズも、手の込んだバッグや革小物も、すべて国内の職人による高い技術から生み出されているのです。[エンダースキーマ]のアトリエも長年この「スキマ 合羽橋」の至近にあるのですが、ファッション的には多少不便な場所にベースを構えるその理由も、「職人さんの工場の多い街なので、すぐにやり取りができるから」という、プロダクトオリジンなデザイナー・柏崎亮さんの考えに基づいています。

譲り受けた刻印機から始まった店舗構想

新店「スキマ 合羽橋」の一番の特徴は、古い刻印機を使ったパーソナライズ・オプションにあります。“地元”浅草で長年操業していた刻印機を持つ職人の老夫婦が引退することを受けて、2台の刻印機を譲り受けることに。この2つの刻印機は50年以上経っているものの、まだまだ“現役”だったことから、そのセカンドライフの活用法を考えたことがこの店舗の構想の核となったそうです。

店内で販売している財布やカード入れ、ノートなどの革小物に刻印ができるというこのサービスは「effect_lab」と名付けられ、その場で指定したアルファベットや数字などを美しく刻印してくれます(混雑時は後送になることもあるそうです)。

刻印のサンプル。文字色(素押し、金、銀)、アルファベット、数字を選び、カウンターのiPadで指定が可能。

このパーソナライズ・オプションこそ、「スキマ 合羽橋」がこの場所にリアル店舗を構える大きな理由の一つです。刻印機の技術を学んだスタッフが目の前で刻印してくれるところを見られる体験、そして自分仕様(もしくはプレゼント用)にカスタマイズされた[エンダースキーマ]は、“ここでしか買えない”ことも、このお店に行くべき理由にもなっています。

カウンター内にある刻印機で、訓練を受けたスタッフが刻印している様子も見ることができる。

「エバーメイド」も刻印サービスをやってみました。

この場所から生まれるもの

「スキマ 合羽橋」の刻印オプションは、技術的にはインターネット経由でも可能でしょう。現実に注文自体は店舗のタブレットを操作するので、すでにデジタルとは共存していますし、今後はEC経由での受付も検討中のようです。しかしこのお店に行くべき理由の一つとして、このブランドが生まれている街の雰囲気を体感しながら製品を手にできるという点は捨てがたいものがあります。

東京ファッションの中心地である原宿や渋谷、銀座などとはまた違った街の雰囲気の中で、地場の職人が手がけた製品の感触を味わえる「スキマ 合羽橋」は、ぜひ『エバーメイド』の方には訪れていただきたいデスティネーション・ストアです。

お問い合わせ
INFO : スキマ 合羽橋
東京都台東区元浅草4-2-10 高橋ビル1F
(※東京メトロ銀座線「田原町」駅より徒歩5分)
TEL : 03-6231-7579
http://henderscheme.com
営業時間:12:00~19:00
定休日:月(祝日を除く)

《編集後記》
[エンダースキーマ]というブランドは以前から不思議な存在に感じていました。スニーカー・オマージュの「mip」シリーズが出た頃に人から教えてもらって、「ずいぶんパンクなことをするなあ」と思っていたのですが、実際に製品を見て、デザイナーの柏崎さんに話を聞くと、程よくチカラは抜けているにもかかわらず、高いクラフトマンシップと強い信念を感じました。それゆえ「スキマ」が合羽橋にできると聞いた時も、驚くというよりも「なるほどな」と妙に納得したのです。何かヘンなことをするけど、そこには深いフィロソフィーがあるブランド。そんなことを伝えたくて今回の取材をさせていただきました。(武井)