“立ち止まって進化する”
nonnative 藤井隆行 インタビュー
「コレクションのための旅」をやめた理由
今の時代で“「自分が何を作っているのか」を振り返った”
EM : 藤井さんは物作りをする時、じっくり考えるタイプですか?
藤井 : というより、ずっと考えているというか(笑)。自分が服を着ていて不快だったことを特に憶えていますよね。あの時寒かった、暑かった、重かった、シワがついたとか。日常の中でしか考えないかもしれないです。あとは旅に行くことで分かることも多い。「ここがこうだったらよかったな」とか、「飛行機って意外と寒いよな」とか。でも昔はコレクションのインスピレーションを得るために毎シーズン旅に行っていたんですけど、最近それをやめたんですよね。
EM : それをシーズンテーマにもしていましたよね。なぜそういうコレクション作りのための旅をやめたんですか?
藤井 : 行けばもちろん何かはあるんです。でも「次はニューヨークだ、次はどこだ」とやっているうちに、だんだん楽しみじゃなくなってきたんですよね。その国には失礼な話ですけど(笑)。そこに新鮮味もなくなって、自分の気分がだいぶ変わったんだと思います。
EM : それはどういう心境の変化だったんですか。
藤井 : うーん。食べ物に例えるなら、そうすることで“味付け”を足していたんですよね。シューズ、パンツ、シャツ、アウターという変わらないベースがあって、それがミリタリーなのかアウトドアなのかっていうところに、さらに何かスパイスを加えていたんです。でも、海外に行くうちにむしろ、「日本の服作りのポテンシャルって改めて凄いな」って気づいたところがあって。今って服の価値観が昔よりも多様化していますよね。昔は食べるのを我慢してでも服を買ったりしている人も多かったですけど、もうそんな時代じゃないし、健全でもない。そういう中で「自分が何を作っているのか」を振り返ったときに、しばらくそういう旅はやめていいんじゃないかと。
EM : もっと根本的な服としての部分にフォーカスするというか。
藤井 : 若い頃って、自分の“服マニア”的な部分を表に出すのはダサいと思っていたんですよ。もっとカルチャーがある方がかっこいいと。でも自分はもともとプロダクト寄りな考え方だし、もっと真っ直ぐにというか、テレビに例えるならNHKみたいに専門的に向き合った方がいいんじゃないかと思ったんですよね。
EM : でも、服やルックの一部分を見ただけでもそれと分かる“[ノンネイティブ]節”みたいなところは常にありましたよね。たとえば息長く売れ続けている山下達郎さんとかユーミンさんとかみたいなミュージシャンの音楽は、ワンフレーズ聴いただけでも分かるみたいなことに近いというか、ぱっと見で[ノンネイティブ]だと分かります。
藤井 : そうですね。たとえばサザン(オールスターズ)とかって、全く興味がない人からしたら、きっと全部同じ曲に聴こえるんですよ。でも好きな人にとってはそれぞれ全然違うじゃないですか。もしかしたら僕もそういう風でありたいのかもしれないですね。大ヒット曲はないかもしれないけど(笑)。
EM : いやいや。ノーカラーを街に根付かせたり、デイリーアイテムへのGORE-TEX®などの機能素材の取り入れ方とか、[ノンネイティブ]がパイオニア的なところは多いですよ。
原点に立ち返って考えた2018AWコレクション
EM : これまでもそうだったと思いますが、2018AW今シーズンは、より機能性や快適性を追求しているということですよね。ただ、そこに過剰なスペックは入れていないと。
藤井 : そうですね。例えば防水みたいな点でも、都会では雨降ってたら雨宿りできるところもたくさんあるし、傘も売っています。東京ほど雨に濡れずに歩ける都市はないですからね。僕が思うに、冬場は“防風”の方が重要なんです。晴れていても風が冷たい時だって外出しなければならないことは多いから。だから同じGORE-TEX®でもWINDSTOPPER®の方が都会でも必要なものだし、防寒にしても一枚で防寒性が高いだけじゃなく、中綿でレイヤードにする方が東京っぽいんですよね。車や電車に乗ったり、お店に入ったりすると暑いですから。
EM : どうしてもスペックが高いものを求めてしまいがちですけど、それが逆に邪魔になったりすることにだんだん気づいて来ましたよね。
藤井 : だから僕の中で今シーズンはより“男っぽく”したいと思ったんですよね。[FILSON(フィルソン)]みたいなものとか、[LL.BEAN(エルエルビーン)]のビーンブーツみたいな、アメリカのオーセンティックなものを現代的解釈で見せられたらいいなと。要らないものを削ぎ落として、「これでいいんだよね」というか。今ってそういう時代じゃないですか。みんなファッションが一番大事っていうことではなく、もっと他のことが大事になってきている時代だからこそ、今はこういう服が[ノンネイティブ]らしいのかなと思っています。
nonnative 2018AW Collection
藤井隆行(Takayuki Fujii) [nonnative(ノンネイティブ)]デザイナー / 1976年生まれ。BEAMSのショップスタッフなどを経て、2001年に[ノンネイティブ]のデザイナーに就任。アメカジやアウトドア、ミリタリーウェアに関する高い知識を持ち、それを現代的な解釈でアウトプットする手腕には常に注目が集まっている。
https://coverchord.com
vendor NAKAMEGURO
東京都目黒区青葉台1-23-14
TEL : 03-6452-3072
http://nonnative.com
《編集後記》
文中にも記載しましたが、10年くらい前に初めて藤井さんにインタビューをした時に「クローゼットの一番手前に来る服でありたい」と語ってくれた話がずっと頭にこびりついています。人がファッションに求めることは多種多様ですが、「それってひとつの究極の答えだな」と思ったものです。久しぶりにじっくり話した藤井さんの考えはその時から変わらないものの、その作るものと同様に、確実に進化もしているとも感じたインタビューでした。(武井)