シリーズ「定番再考。」特別編
いま再びWILD THINGSの
デナリジャケットを語ろう。
昨年2017年秋、[WILD THINGS(ワイルドシングス)]の名品「DENALI JACKET(デナリジャケット)」を[nonnative(ノンネイティブ)]がアップデートしたモデルが発売になりました。このモデルは「Pilgrim Surf + Supply(ピルグリム サーフ+サプライ)」と、「vendor(ベンダー)」と「COVERCHORD(カバーコード)」のみで展開されましたが、10万円を超えるプライスにもかかわらず、瞬く間に完売。その人気を受けて、2018AWシーズンにもその第2弾となるモデルの発売が決定しました。 なぜ[ワイルドシングス]なのか、なぜ「デナリジャケット」なのか。今回のシリーズ「定番再考。」特別編では、このモデルの開発に携わった[ノンネイティブ]デザイナーの藤井隆行さん、「ビームス」メンズカジュアル統括ディレクターの中田慎介さん、「ピルグリム サーフ+サプライ」ディレクター泉貴之さんの3人が、名品「デナリジャケット」を熱く語ります。
2018年11月28日公開の[ノンネイティブ]藤井隆行さんの単独インタビュー記事はこちら。
「ビームス」の中でも象徴的なブランド、[ワイルドシングス]
[ワイルドシングス]は、1981年にアメリカ・ニューハンプシャー州で登山家のジョン・ボチャードとマリー・ミューニエール夫妻によって創立されたアウトドアブランドです。創業者のマリーはスイスのマウンテンガイド一家の娘として生まれ、1984年には女性として初めてアンデス山脈最高峰のアコンカグアの登頂に成功したという生粋のクライマー。この時に[ワイルドシングス]の製品テストチームの一員でもあったことで、彼女の名前とそのブランドはクライマーにも広く知れ渡ったそうです。
その後[ワイルドシングス]は探検家やフォトグラファーたちとの商品開発を行い、アメリカのアウトドア専門店からも絶大な支持を得ながら、ミリタリーウェアの開発にも着手。アメリカ軍への商品供給を行い、寒冷地用ウェアのサプライヤーにも認定されるメーカーへと成長しました。
しかしながら、アメリカにおいて絶大な知名度を誇っていたかと言えばそうではなく、「知る人ぞ知る」的存在だったようです。実際、90年代にはアメリカに住んでいて、古着関係の仕事をしていたという「ピルグリム サーフ+サプライ」のディレクターの泉貴之さんも、日本の雑誌の情報では知っていたものの、アメリカで一般流通しているものをあまり見たことがなかったそうです。そんな中、90年代にこの[ワイルドシングス]の魅力に目をつけたのが、セレクトショップの「ビームス」でした。
本国では認知が低く、一部にしか魅力が知られていないものでも、それをフックアップして日本流に紹介するのは、長年日本のセレクトショップが“目利き”であると言われる所以(ゆえん)。[ワイルドシングス]もまさにそんな位置づけのブランドだったと言えます。
「『ビームス』はこの約40年の間に数多くのブランドをセレクトして紹介してきましたけど、『ビームス』における秋冬のアウターの定番ブランドとして真っ先に名前が上がるのは[ワイルドシングス]だと思います。90年代から取り扱い始めて日本国内では相当数を売ってきましたし、ウチのスタッフなら『持ってなきゃいけない』くらいの存在のブランド。『ビームス』が何かのアニバーサリーで物を作るなら、間違いなくその10選には入るでしょうね」と語るのは、現在「ビームス」のメンズカジュアルの統括ディレクターを務める中田慎介さん。
分かる人には分かる「デナリジャケット」の魅力
その[ワイルドシングス]の中でも1983年の登場以来マイナーチェンジを繰り返しながら、フラッグシップモデルとして君臨してきた「デナリジャケット」は、現在も作られている定番モデル。そして何を隠そう、1999年に「ビームス ジャパン」のオープニングスタッフだったという[ノンネイティブ]の藤井隆行さんも、当時から[ワイルドシングス]の「デナリジャケット」を愛用してきた一人です。
「[ワイルドシングス]を買ったのは、『ビームス』に入る前の古着屋で働いていた時代からで、『デナリ』は『ビームス』で入手したものを含めてトータル5着くらい買ったほど特別な存在で、僕の中でも“ワイシンと言えば『ビームス』”のイメージが強いです」(藤井さん)
90年代から2000年代にかけて「ビームス」は、毎シーズンのように[ワイルドシングス]の「デナリジャケット」をストリートのキーアイテムとしてプッシュ。その魅力は「研ぎ澄まされたデザイン(藤井さん)」、「完成され過ぎとも言えるデザイン(中田さん)」と、現在のカジュアルウェアを知り尽くした二人もそのデザイン面と機能を絶賛します。
とは言え、近年再び90年代や2000年代のアウトドア系古着の人気に火がついていますが、それもここ最近の話。実際、藤井さんも5着は持っていたという「デナリジャケット」も数年前に全て手放してしまったと言います。
「もちろん当時は全然気にならなかったんですけど、今着ると丈が短かすぎたり、ディティールとか色々気になるところが出てきちゃうんですよね」(藤井さん)
取材現場にも2000年代初期のものと思われる「デナリジャケット」の私物が参考に持ち込まれていましたが、確かに少々隔世の感が。古着として着こなすのはアリだとしても、当時のこのモデルの“ハイテク感”を知っている人にとってみれば、意味の変わったものになってしまっているのも分かります。