“ニュー・ビンテージボーイ” odol ミゾベリョウ
ネクストビンテージを探して 〜「原宿FAN」編〜
edit&text_Yukihisa Takei / photo_Kiyotaka Hamamura
注目バンドodol(オドル)のボーカルとして活躍しているミゾベリョウは1994年生まれ。若手ミュージシャンの中でも屈指の服好きですが、最新ファッションに身を包むよりも、広範な知識をもとにビンテージや古着をミックスしたスタイルを好み、「意味のないものは着たくない」という信条も持っています。 『エバーメイド』の“Discover New Standards”というテーマにも共鳴するミゾベくんと、「次にビンテージと呼ばれるようになるものは何だろう」という会話から生まれたこの企画、”ニュー・ビンテージボーイ“では、ミゾベくんが普段から密かに通っていたり、気になっている古着屋やセレクトショップを一緒に巡り、そのキーマンである店長やディレクターとの会話から、”ビンテージ“の新定番を探します。 初回は、原宿のセレクトショップ「FAN(ファン)」のストアマネージャー、坂本一さん。原宿の古着屋の名店「BerBerJin(ベルベルジン)」の副店長だった坂本さんは、新品と古着を同じ目線で扱うスタイルで2年前にこの「FAN」の立ち上げに参加しました。 坂本さんが書いたブログまで長年チェックしていたというミゾベくん、やや緊張の面持ちで対談がスタートです。
リアルに“ファン”だった店
ミゾベ : 僕、(坂本)ハジメさんが「ベルベルジン」時代から一方的にファンで。この「FAN」」ももちろんチェックしています。今回この連載では、ビンテージの概念というか、そういうものを考えていきたくて、まずハジメさんにお話を聞きたかったんです。
坂本 : 僕はいま34歳ですけど、僕がファッションに目覚めた小学校の頃って、ビンテージがファッションの中心だったんです。テレビでタレントさんがバンバン古着を着ていて、中でも僕が一番憧れたのが[Levi’s®(リーバイス)]ですが、それの何が格好良かったのかというと、誰も持っていないビンテージを持っている価値、みたいなことでしたね。それが今も僕の根底にあります。現代は僕らから見ると何の価値もないようなものを20代の子が価値を持って着ている時代。古着って割と保守的な業界なので、僕ら自身がその若い世代の感性を勉強している段階。音楽でもそうだと思うんですけど、今は90年代以降に生まれたものの再構築の時期だと思うんです。
ミゾベ : なるほど、音楽でもそうですね。
坂本 : いままではそれこそゴミとして扱っていたようなものに価値をつけるようになってきたのは、すごく面白いなと思っていて。やっぱりビンテージというのは、人と被らないものを見つけてもらう部分に面白みがあるものなので、僕自身そういうセレクトを心がけています。たとえば昔はオジサンしか買わなかったようなものを、若い人がサイズを大きめで着たりすることは面白いですよね。そういうことはこれからもいっぱい出てくると思います。たとえばこれは1970年代ミリタリービンテージの定番ですが、これをソースに新品を作ったりすることは何度も繰り返されてきました。ちなみにミゾベくんは何年生まれでしたっけ?
ミゾベ : 僕は1994年です。
坂本 : 1994年のものって僕の世代だとビンテージでも何でもなかったんですけど、でも自分だって自分が生まれる前のものとかって、もう充分ビンテージだったんですよね。だからそういう価値観も変わってきているのは当たり前なんです。
ミゾベ : 確かにそうですね。ビンテージというと1970年代より前のようなところがありますけど、時間とともに変わって来ていると思います。
今は世界的に、カルチャーよりも「ファッション先行型」
坂本 : 「格好いいから着る」というのはファッションでは一番重要だと思うんですけど、今って情報が過多なので、同じものに集中してしまう割にはそれが定着しないんですよね。たとえば僕は音楽も好きですけど、「ビースティー・ボーイズが着ているからかっこいい」とか、「この人があの時に着ていたからかっこいい」みたいなことが何かが定番になっていく背景にありました。そうやってかつては音楽やカルチャーが先にあって、その後にファッションがあったんですが、今は世界的にも完全に「ファッション先行型」だと思います。ある人気のブランドがあって、それをミュージシャンが着るという流れ。それって一般の若者と同じ思考なんですよね。
ミゾベ : そうかもしれない。
坂本 : この「FAN」というお店の名前の由来は換気扇や扇風機のファンから来ていて、「風通しを良くして“すべてのものをフラットに”というのがあるんですけど、古着と新品って今はすごく密接な関係でもあります。モードもストリートもサンプルソースは古着、それを再構築した新品、という作り方です。だから若い世代の人がベーシックをちゃんと押さえて、誰が過去に何をやってきて、何をやっていないかが分かれば、僕らが思いもつかないような着方になって、そこから新しいスタンダードが生まれると思います。
ミゾベ : 僕はハジメさんのそういう部分の考え方に共鳴していて、というかハジメさんを勝手に追っかけていました(笑)。僕らの世代の古着好きはほとんどがハジメさんのブログをチェックしていたんじゃないかな、と思います。昨日の「はじめのおすすめ」見た?という会話は幾度となくしました。僕の青春です。
坂本 : それ、もっと早く知りたかった(笑)。
ミゾベ : 僕がビンテージに出会った時って「なんでこんなに高いんだ?」って思うことが多々ありました。[リーバイス®]の501®が高いのはなんとなく分かるけど、「何でこのPコートが30万もするんだ」とか、それをどう着るんだと。それを昔っぽく着ているような人はすぐに見当たるんですけど、どんなビンテージでも今っぽく着て提案してくれていたのがハジメさんでした。そして今は「FAN」で古着だけじゃなくて新品もミックスして提案しているということにすごく意味があるんじゃないかと思っています。
“世界で一番、古着を着こなせる人間になろうと思った”(坂本)
坂本: 僕がいた「ベルベルジン」はもう30年くらいの老舗で、僕も買い付けでアメリカに行っていたんですけど、もう世界の人から知られる存在になっていて。で、僕より古着に詳しい人は世界中にいっぱいいると思うんですけど、僕は「世界一番、古着が着こなせる人間になろう」と思ったんです。それこそ新品を合わせるのはご法度だったんですけど、あえて新品を合わせて発信をしていました。それが伝わっていたのは嬉しいですね。
ミゾベ : 僕がハジメさんのブログを頻繁に見るようになったのは2013年頃からですけど、遡ってみていくうちに、ハジメさんがスキニーのボトムに、黒いスウェットを合わせて、「B-15B」を合わせていたのがめっちゃ格好いいと思って。
EM : それは軍モノですか?
坂本 : 「B-15B」って1940、50年代のミリタリージャケットなんですけど、「MA-1」の3つくらい前の形なんですよ。
ミゾベ : 「B-15」ってA、B、C、Dがあって、その後にMA-1が来るんですけど、「B-15B」はボアが茶色で、それが格好よくて。
坂本 : そういうのも10年くらい前までは当時の40代以上の人しか着なかったんですよ。だからあえてそういうスタイルにしたんです。
ミゾベ : 確かその時は「MA-1」がまた流行り始めた頃で。でも僕は「みんな着てるしな」と思っていた時にその投稿を見て。「B-15B」は当時10万くらいして高かったので買えなくて、結局「B-15D」を買ったんですが、一時期はそれを毎日着ていました(笑)。
坂本 : 嬉しい話ですねえ。古着ってセレクトショップの本質みたいなものだと思うんです。自分がいいと思った1点ものを仕入れてきて、値段を付けて売るみたいなことは。流行を完全に無視するやり方もできるんでしょうけど、やっぱりそれはできないなと僕は思っていたんです。だから「MA-1」を着るにしてもちょっとひねりたかったし。
“新品のものも古着も関係なく格好いいという感覚は音楽にも通じる”(ミゾベ)
ミゾベ : 僕が一番力を入れてやっているのはやっぱり音楽なんですけど、僕がなぜ古着とか古着のカルチャーが好きなのかなと考えた時に、新品のものも古着も関係なく発信する感覚は音楽にこそ通じるところがあるんだなと。
EM : それは音楽でも音の拾い方というか、そういうことですか?
ミゾベ : そうですね。世界の音楽でいま何が起こっているのかを把握して、その上で何をやるか。トレンドを完全に無視するということはこの世界に生きている以上、究極にはできないことだし、そこから何を選び、何を捨ててそれが自分の価値観だと提示できるか。そこが最も通ずる部分だと感じます。
坂本 : 僕、実は音楽の専門学校を出ていて(笑)。自分はヒップホップだったんですけど、作り方としてはゼロから作るというよりはサンプリングの発想で、すでにあるものをセンス良く切り取るという。それはファッションにも言えて、今はセンスだけで切り取ったところに、じゃあ、何で今はこれがトレンドになっているの? ということをちゃんとロジックで考えられるとより楽しくなると思います。
ミゾベ : 僕はこのお店の古着にこだわらないみたいな感覚も好きで。例えばこのお店で原宿の「ROMMY」のプリントTシャツを出したじゃないですか。そういうところにすごく感じるものがあるんです。
EM : なんですか、その「ROMMY」って。
坂本 : 原宿にある老舗の洋食屋さんです。この界隈で働いている人とか、古着屋めぐりをしている人は必ず行ったことあるみたいなお店で、ちょっとした地域活性化みたいなことなんですけど、僕も10年通ったからこそコラボレーションのオファーもできたというか。「原宿を盛り上げたいんです」とお店の方にお話して。何となく作るのではなくて、この場所ならではのカルチャーを作りたいという発想なんです。
ミゾベ : これって原宿をレペゼンしているようなものですよね。この街にあるお店だから生まれた説得力というか。
EM : ちなみにこれを買う人はどういう方が多いですか。
坂本 : ほとんどがこの辺で働いている人です(笑)。実はもう1色売り切れちゃうくらい売れています。
「FAN」が考える、次にスタンダードになるもの
EM : このお店のセレクトは多様性がありますが、強みはどういうところだとお考えですか?
坂本 : 僕らのお店のセレクトはちょっとニッチな品揃えなんですけど、自信はあって。自分たちが見つけたものをダイレクトに店頭に出しているんで、やっぱり熱量があると思うんですね。それはこのくらいの規模感だからできることかなと思います。それを原宿の真ん中でやることに意味がある。
ミゾベ : 僕がハジメさんを知ったのは、単純に「この人の着ている服が格好いいな」というところがスタートでしたけど、その後はブログに書いてある言葉だったり、考え方やバックボーンに影響を受けたところが大きくて。で、今日最後にお聞きしたかったのは、ハジメさんがこれから先にスタンダードになりそうな古着ってどういうものなのかなって。
坂本 : 色々あるんですけど、例えば[COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)]。こういうタイプの古着屋でも最近[コム デ ギャルソン]を扱うのが一般的になっているんですけど、その中でも僕らなりにいいものって何だろうと精査したのが、1998年くらいから2006年くらいまで、工業大学の出身の田中啓一さんという方がデザインを担当されていた時期があって、その頃の服にはどこかインダストリアルな雰囲気があるんです。
EM : [コム デ ギャルソン]といえばデザイナーズ古着のお店で扱う印象だったんですけど、今はこういう提案になっているんですね。
坂本 : たとえば[HERMES(エルメス)]もマルジェラがデザインしていた時期もありますけど、そうやって同じブランドでも誰か特定の人がデザインしていたものにフォーカスすると面白いんです。だから昔僕は[Dickies(ディッキーズ)]のパンツばっかり穿いていたんですけど、最近は大人になったので(笑)、[コム デ ギャルソン]のパンツになっています。あとは80年代の[山本寛斎]さんの服とかも無茶苦茶カッコいい。おしなべて日本のブランドって昔から本当に作りの部分でもクオリティが高いんです。古着の良さって人と被らないみたいなところもあるんですが、クオリティの高いものを安く着られるという側面も大きいかなと思います。
ミゾベ : デザイナーズ古着のお店ではもう価値がなくなってしまったようなものを、ピックアップする感覚ですね。
坂本: そうです。ただの「中古」を、「古着」とか「ビンテージ」の価値観に持っていけるかどうかですよね。そこにはちゃんと理由や思い入れが必要なんじゃないかなと思います。
ミゾベリョウ 1994年生まれ。福岡県出身。同郷の森山公稀とともに2014年にバンドodol(オドル)を結成。2015年に1stアルバムの『odol』をリリース。2018年夏にはフジロックフェスティバルの「レッドマーキー」に出演。2018年10月発売の3rdアルバム『往来するもの』はCDショップ大賞・九州ブロック賞を受賞。ファッション好きで、ビンテージウェアに対する知識や熱量も高い。 http://odol.jp/ https://twitter.com/ryo_mizobe https://www.instagram.com/ryo_mizobe/