浮世絵アートが10万円って安い? 高い?
江戸時代から明治にかけてメディアであり続けた浮世絵のその真価を説く

text_Marina Haga / photo_Erina Takahashi / cooperation_Shigeru Shindo & UKIYO-E PROJECT

デヴィッド・ボウイが浮世絵で現代に蘇る!?

つい先日から代官山の蔦屋書店に展示され、現在は石川県加賀市のライフスタイルショップ「ENZO SHOP」に巡回中のデヴィット・ボウイを描いた版画。これは浮世絵のスタンスを現代に活かした「UKIYO-E PROJECT」による作品で、他にも、メタルバンドKISSやIron Maidenを被写体にしたものもあり、去年の夏イギリスの「大英博物館」にデヴィッド・ボウイ浮世絵の二作品が所蔵されました。

展示は商品でもあり、その価格は10万円(!)。値段を聞いてもいまいちピンとこないのは、浮世絵はもちろん、アートマーケットの価値基準が曖昧だったりするから。しかし、その読み解き方を知るだけで、絵の中に当時の物語が詰まった浮世絵はグッと面白さを増します。
ここでは、そんな浮世絵をもっと身近に感じるために、浮世絵研究の第一人者であり、「UKIYO-E PROJECT」を支える新藤茂先生監修のもと、その真価を探りました。

 

1.浮世絵とは

そもそも何故デヴィット・ボウイなの? 現代を映すメディアである浮世絵


浮世絵のスタンスを現代に蘇らせるという考えの基、発足した「UKIYO-E PROJECT」ですが、その題材が何故デヴィット・ボウイやKISSなのか疑問に思った人は多いのではないでしょうか。浮世絵の「浮世」は「今・現在」という意味があり、今のようなメディアのない時代は、人気のある美人や歌舞伎役者、スポットなどを描き、木版摺によって今の世の中のトレンドを届けるツールでした。喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川国貞、歌川国芳、歌川広重などは絵師であり、版元は今で言うプロデューサーのような立場。絵師が版下絵を描いたものに、彫師、摺師の技術が加わり、「一枚絵」に仕上げてきます。細かい手作業で大変ですが、一度、木版の版木を作ってしまうと、数千枚を摺ることも可能で、アートというよりも、新聞や雑誌のようにカジュアルな立ち位置だったそうです。「UKIYO-E PROJECT」が今回制作した、デヴィット・ボウイの浮世絵も同様の過程を踏んで作られています。

 

2.誤った浮世絵の知識がネットに充満

多数決が正しいワケじゃない


情報過多な現代、インターネット上には正しい情報と正しくない情報が混在し読者の正しい取捨選択が必要ですが、これと同じ状況なのが浮世絵研究の世界だと新藤先生。その被害は、普段は浮世絵とまったく関わりのないところで生活する我々にも及んでいるとのことで、そのひとつが、『広辞苑』に記述されている“言葉”だと言います。現代の言葉の中には浮世絵からきているものがあり、その読み方や意味が間違って掲載されているものも多いよう。

例えば、神社や仏閣に参拝したときに貼る「千社札」。長年その札が風雨にさらされ、自然にはがれてしまうまでの間、ずっとその神社仏閣にお参りしているという意味がある「千社札」。この読み方が、『広辞苑』では「せん“じゃ”ふだ」になっていますが、「せん“しゃ”ふだ」と濁らないのが正解。このように“辞書が正しい”という固定概念を覆す単語が、他にも複数あるとのこと。

真贋の学術的な裏付けがないにもかかわらず、一方的に価値ある作品と主張され、美術館に展示されている浮世絵も存在するそう。回顧展で本物のつもりで見たアートが偽物の可能性があるとは誰しもが予想しないこと。この現状を知ると、必ずしも多数決が正しいとは言い切れないことや、浮世絵に限らず、情報を見極められる力がより必要だと痛感します。

 

 

3.構図からを読み解く浮世絵

読み解くと価値が見えてくる。浮世絵徹底検証

用紙の薄さがカギ。正面摺で緻密に着物の柄を表現


一見、立体感が無いような印象の浮世絵ですが、写真の通り、見る角度を変えると光に反射して光沢感のある着物の柄が浮き出てきます。正面摺(しょうめんずり)という技法で、衣類の模様を表現する際に多く用いられます。絵の具を用いず、紙の裏面に模様を彫った版木を当てて、正面からこすると、版木に彫った模様が浮かび上がります。

2.師匠と弟子の共作。漫画のコマの由来もここから


明治33年に亡くなったことで浮世絵が低迷したと言われるほど、明治時代を代表する浮世絵師として知られた、歌川国周。彼がまだ独立する前に、師匠である歌川豊国の浮世絵の一部を描いた貴重な作品がこちら。豊国がメインである遊女を手掛け、門人・国周は右上の「コマ絵」で、遊郭から見える風景を描いています。現代の漫画の“コマ”という言葉は、これが由来しているものとのこと。

3.同じ浮世絵を比較して見えてくるオリジナルの姿

歌川国貞(三代豊国) / 嘉永3年3月の作品

浮世絵は、1点もののアートと違い、何百枚と摺られる版画だからこそ1枚だけを見るだけではダメ。そんなことを物語るのが、1850年に豊国が描いた歌舞伎役者五代目市川海老蔵のこちらの2組の浮世絵(三枚続)です。当時、贅沢をしすぎだと幕府から因縁をつけられ江戸を追放された海老蔵でしたが、再び江戸に帰ってきた様子を表現しているとのこと。海老蔵を天照大神に見立て、「海老蔵が居ない江戸の芝居なんて真っ暗闇だったが、また江戸に光が戻った」という意味。

同じ浮世絵にもかかわらず、まったく印象の異なる上と下、2組の浮世絵。これは褪色により、それぞれ異なる変化を遂げてしまったものですが、オリジナルの色に近いのは下の絵だそう。そんな判断が下せるのも、当時の絵の具の成分を理解し、見極め、その褪色の仕方を知っているからだと新藤先生は言います。

4.同じ版画の使い回し!? 時代の違う2組の浮世絵が描いている出来事は?


同じ版木を使って、青と赤の相反するメインカラーで描かれた2組の浮世絵。上は、江戸時代の終わりに描かれた風景で、榎本武揚が北海道箱館に立てこもって一戦を交えるための道中を描いているもの。慶応4年(1868)の「箱館戦争」ですが、よく見ると「源頼朝奥州征罰」という謎の文字が。これは当時、リアルタイムの内容を描くことが禁止とされていたため、そのカモフラージュだそう。しかし、誰が見ても軍艦で、頼朝ではない。江戸幕府の御威光も、もはや終わり。一方、明治時代に描かれた鮮明な赤が印象的な浮世絵。軍艦に乗って指揮するのは井上馨で、九州に向かって西郷隆盛を制圧しにいく道中を表しています。明治10年(1878)の西南戦争です。つまり、初摺の浮世絵は、北海道に向かい、後摺の浮世絵は九州に向かうという、浮世絵が版画ならではの楽しみ方です。

 

ここで紹介した手法や読み解き方はほんの一部で、浮世絵を知るには、歌舞伎や落語など当時の文化を知らないと解析できないと言う新藤先生。気の遠くなるような緻密な作業で、労力と時間がかかるアナログな浮世絵は、現代ではやはり偉大なアートです。同様の手法で現代に蘇った「UKIYO-E PROJECT」による作品も、100年後には価値が上がる可能性を大いに秘めています。

 

UKIYO-E PROJECT
世界中の人に日本の伝統を感じてもらうべく、百年後の未来に誇れる「現代の浮世絵」=「今を描いた作品」を発信し続ける2014年に発足したプロジェクト。日本だけでなく、ロサンゼルスやパリ、ロンドンなど、海外にてエキシビジョンを開催することも国内外にファンを増やし続けている。今回紹介したデヴィット・ボウイをはじめとする作品は、現在、石川県加賀市のライフスタイルショップ「ENZO SHOP」にて巡回中。それに合わせた金沢らしいイベントも企画しているので詳しくは下記よりチェックを。
https://ukiyoe.today/

イベント詳細
https://www.enzo-shop.com/2019/06/28/ukiyo-e-project-巡回展スタート/