素人目線でプロに聞く。
そもそも[ライカ]って、何がすごいの?
シリーズ「定番再考。」特別編

edit&text_Yukihisa Takei photo_Nobuyuki Shigetake

[ライカ]を買おうか迷っている人にこそ読んで欲しい。『エバーメイド』でも活躍中の二人のフォトグラファー、清水健吾と土屋航に聞く、「ライカMシリーズ」の魅力。

[ライカ]が欲しくなった編集者が、プロに聞く。

カメラに興味を持って探し始めると、多くの人が[Leica(ライカ)]というカメラに辿り着きます。ドイツで1914年にプロトタイプを誕生させた老舗カメラメーカーで、100年以上の歴史を持つこの[ライカ]は、数多くの世界的な写真家に愛用されてきたことでも知られており、カメラというフィールドの中でも特別な存在になっています。

ちなみにライカを使っている(いた)ことで知られる有名な写真家は、こんな方々。(順不同、敬称略 / 編集部調べ)

エリオット・アーウィット、ロバート・キャパ、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ロベール・ドアノー、ジョセフ・クーデルカ、木村伊兵衛、植田正治、大竹省二、秋山庄太郎、高梨豊、水越武、大石芳野、立木義浩、操上和美、ハービー・山口、川田喜久治、安珠、若木信吾、荒木経惟…etc

写真好きな人でなくとも作品を目にしたことのある写真家の名前が連なりますが、そうしたプロフェッショナルで“巨匠”なイメージも強いので、カメラに興味を持った程度の素人がおいそれと所持していいものではないような気もしてしまいます。しかも最新機種であれば本体のみで100万円前後の価格になるので、普通は気軽に買えるものではありません。

ただ、少し本格的に写真を撮ってみたくなったり、[ライカ]に関する逸話を目にするたびに、「もし自分の手元に[ライカ]があったら、これまでとは違う写真が撮れて、世界の見方も変わるのでは?」という好奇心が湧いて来るのは普通のこと。そして何よりモノとして見ても、その質実剛健な佇まいに強く惹かれてしまう人も多いはず。何を隠そう、当メディアの編集人である私(武井)がそんな一人です。

ところが実際に[ライカ]について調べても、あまり“素人”や“初心者”に分かりやすい記事は見当たりません。[ライカ]のオフィシャルサイトも素人には少々本格的。まず知りたいのは「結局[ライカ]って何が良いの? 何が凄いの? こんな自分でも持っていいの?」という段階の話だったりします。

[ライカ]ユーザーの大御所フォトグラファーの方々にお話を聞くのはカメラ専門メディアの領域。それならば、普段から一緒に仕事をしていて[ライカ]ユーザーのフォトグラファーに色々聞いてしまえ!(そしてどうせなら記事にしてしまえ!)というのが当企画です。

今回は「デジタルのライカMシリーズ」を中心に、当メディアが信頼する二人のフォトグラファー、清水健吾さんと土屋航さんに話を聞きました。

◯清水健吾….フォトグラファー。1979年生まれ。写真事務所のSTUHを経て2016年に独立して清水写真事務所を設立。ファッション雑誌のプロダクトページやカタログ、メディアの取材ポートレートなどで活躍。当メディアでは、毎日更新の「DAYLY STANDARD」や特集記事を担当。仕事のメイン機は[CANON(キヤノン)]の「1DX MARK Ⅱ」。[ライカ]はデジタルの「ライカM9」とフィルムの「ライカM3」を所有し、現場で使い分けている。

◯土屋航…フォトグラファー。1983年生まれ。アメリカの大学で写真を学んだのちニューヨークのファッションシーンに飛び込み、活動をスタート。海外のコレクション撮影などでフィールドを広げ、現在もコレクションのバックステージや雑誌の取材、ファッションブランドのカタログなどで活躍。当メディアでも特集記事を担当。メイン機としてデジタルの「ライカM9-P」とフィルムの「ライカM2」を使用し、[NIKON(ニコン)]のデジタル一眼レフも併用している。

◯聞き手…武井幸久 / 雑誌『EYESCREAM』やウェブメディア『ハニカム』の編集を経て、『EVERMADE.』編集人。長年撮影の仕事は多いものの、カメラの知識は薄い。現在は[SONY]のミラーレスを所有しているものの、メイン機はiPhone。[ライカ]のデジタルが気になっているが、購入を迷っている。

二人のプロフェッショナル。それぞれの[ライカ]との出会い

お互いに存在を知りながらも、今回の取材が初対面だった二人。(左)土屋航さん、(右)清水健吾さん。取材は代々木の清水さんのスタジオにて。

EM : 「定番」と「新定番」をテーマにしている「エバーメイド」としては、カメラにおける[ライカ]ってまさにそういう存在の究極なんですね。フィルム時代からのマスターピースであり、現在もデジタルで進化をしているという点でも。そもそも二人はどういうきっかけで[ライカ]に出会い、現在も使うようになったんですか?

清水健吾(以下 清水): 僕の場合はほとんど偶然みたいなものでした。特に[ライカ]に強い憧れを持っていたわけではなく、いつかタイミングあったら使おうかなくらいだったんですが、6.7年前くらいにカメラ屋に入ったら、すごく綺麗に塗装されたこの「ライカM3」に出会って、お店の人と話しているうちに、気がついたら買っていたという(笑)。

土屋航(以下 土屋): [ライカ]ってオールブラックのモデルもあるんですが、昔から黒は限定品で高いので、「ブラックペイント」と言って、シルバーのボディを自分で黒く塗装する人が多いんですよ。清水さんのこれは本当に綺麗だと思いますね。

フォトグラファー 清水健吾さん所有のフィルムカメラ、「ライカM3」。誰かが“ブラックペイント”したものを中古で購入。

EM : カメラを自分で塗装するシーンが存在するという時点で、すでにちょっと普通のカメラと違いますよね。清水くんは普段の撮影では[キヤノン](「1DX MARKⅡ」)を使うことが多いですが、[ライカ]との使い分けはどうしていますか?

清水 : ポートレートとかは「ライカM9」で撮ることが多いですね。白山眼鏡店の仕事でモノクロのポートレートを写真集にしたんですが、これは「M9」だけで撮りました。この時は何枚以上シャッター切らないとか、自分の中にいろんな制約を設けて撮影をしていて。写真って、撮る前後が重要だと僕は思うんですが、[ライカ]はそういう時間に意味をもたらしてくれるんです。僕はまったくカメラ機材のオタクとかではなくて、重視しているのは「使用していてイヤじゃないかどうか」。ブツ撮りやファッション撮影で使っている[キヤノン]もそうですけど、“必要最低限で無駄がない”が好きで、いろいろ試した上で[ライカ]も「M9」が自分に合っていると思いました。ユニクロの松浦弥太郎さんとの連載ページも「ライカM9」で撮影しています。

清水さんが撮影を手がけた「白山眼鏡」の写真集『眼鏡の人々』。「白山眼鏡」の眼鏡を愛用する人々のポートレートをモノクロで収めたもので、すべて「ライカM9」デジタルで撮影されたもの。

こちらは清水さん所有のデジタルカメラ「ライカM9」。

土屋 : 僕はずっとフィルムの「ライカM2」で仕事をしてきました。ファッションショーのバックステージの仕事も多いんですが、ああいう現場って機動力が重要で。だから報道やドキュメンタリーの世界で使われてきた[ライカ]は合っているんですね。ショー会場はいろんなタイプの光が混在する場所ですが、そういうミックス光の場所で撮っても[ライカ]なら写真として成立する。たとえピントが甘くても、なぜか写真としての“芯”があるものが撮れるのが[ライカ]の不思議なところです。以前は少し上の世代のカメラマンの方には「デジタルの[ライカ]は仕事では使えない」と言う人もいたのですが、僕は天邪鬼なので(笑)「そんなことないだろう」という想いで使い始めたんです。

土屋さんが撮影した[FACETASM(ファセッタズム)]の2019SSのショーのバックステージ写真。こちらも「ライカM9-P」で撮影。
こちらはフォトグラファー 土屋航さん所有のフィルムカメラ「ライカ M2」。
こちらが土屋さんのデジタルカメラ「ライカ M9-P」。

“本当に「[ライカ]でしか撮れないものがある」としか言えないんですよね”(清水)

EM : 今回二人は初対面ですが、以前から自分がよく知っている二人に共通するところは、ミニマリストというか、モノ選びに関して非常に熟考型でストイックなところ。そういう二人がなぜ[ライカ]を使っているのかを改めて聞きたくて。

清水 : あまり格好つけたこと言うつもりはないし、よくそういう話も聞くと思うんですけど、本当に「[ライカ]でしか撮れないものがあるから」としか言えないんですよね。替えが効くものだったらそれでもいいんです。でも僕にとっては、このジャンルでこれ以上のものが見つからない。この大きさも含めて“道具”としてのちょうど良さ。このカメラってある種の制限のあるもので、基本的に速く動いているものは撮れないし、いっぱい撮るのも向いていない。マニュアルということもあっていろんな制限はあるんですけど、僕が写真を撮る上ではその制限が「イヤじゃない」んです。デジタルの時代になって、多くの人が“たくさん撮りがち”だと思うんですけど、[ライカ]は写真を撮る前後の時間がゆったりしていて、無駄に多くシャッターを切らないようになるんです。あとはレンジファインダーなので、シャッター幕が下りないから、見たままが撮れる。

EM : すみません。その「レンジファインダー」が素人にはよくわからないという(笑)。

土屋 : 一眼レフは中にミラーが入っていて、ミラー越しに入った画がファインダーで見えるんです。

清水 : で、ほんの一瞬ですけど、そのミラーが上がる瞬間、被写体が目を閉じているかどうかが分からない。その点でレンジファインダーは確実なんです。押した瞬間に目で見ているものが写るから。

土屋 : それって写真にとって非常に重要な要素で。[ライカ]のレンジファインダーは、その瞬間が確実に分かるから、失敗がないんですね。あとは清水さんの言うように、“モノとしての良さ”も共感できます。1950年代にこのM型が出来て、そこから基本的に何も変わっていないんです。レンズのマウントも変わっていないので、M型のレンズであれば過去のものも全部付く。デジタルになっても、ユーザーを捨てていない姿勢も好きですね。清水さんの言うように[ライカ]はゆっくりも撮れるんですけど、一方で速写性もあって。

海外でのスケートシーンを「ライカM9-P」撮影した土屋さんのドキュメンタリー作品。

“カメラを突き詰めると結局[ライカ]の魅力に戻ってしまう”(土屋)

EM : “速写性”というのは、オートフォーカスの機能も今はどんどん進化をしてきていますけど、それよりも速いということなんですか?

清水 : 僕らにとっては、オートフォーカスよりもマニュアルの方が安心なんです。機械に任せているのは不安で。僕は一番信用性のあるものを使いたいタイプで、僕が使っている[キヤノン]の「1DX MARKⅡ」は、キヤノン製で一番オートフォーカスが速いカメラですが、ただそれでも「今だ」と思った瞬間にオートフォーカスはどこか信頼できないんですよ。

土屋 : 僕もできるだけマニュアルで撮りたい派です。そのせいかカメラを追い求めていくと、結局[ライカ]の魅力に戻ってきてしまうんですね。35ミリのフルフレームは「ライカ判」とも言われていますが、一眼レフができる前に[ライカ]が生まれているので、本当に“カメラの原点”なんです。だからある程度カメラが分かると[ライカ]は凄く使いやすい。カメラの基礎そのものなので。

EM : でも、当然その「基礎」の知識が必要になりますね。

清水 : うーん、それは他のカメラと何も変わらないというか。絞り値とシャッタスピード、あとはISO感度くらい。なので、そんなに難しいことではないんです。[ライカ]は価格も高いので、難しく思わせてしまうのかもしれないですけど。そして「35ミリのレンジファインダー」というのは、そんなに選択肢がないので、ほぼ[ライカ]一択です。

土屋 : それがもう、コピーできないくらいのレベルの完成度なんですよね。日本の優れたカメラメーカーも、きっとそこは諦めたんじゃないかというか。

清水 : カメラとして完成されて、他のメーカーはグウの音も出ないくらいの状態だと思いますね。それ以上を作る必要もないし。だって今でも最初のM型を使っている人もいるくらいですから。

土屋 : 僕も長年使っていますけど全然壊れないです。たまにオーバーホールはしますけど、すぐ直る。「ライカM2」の場合は中に電子機器も入っていないんで壊れないんです。そして偶然ですけど、清水さんと僕が持っている[ライカ]は両方ほとんど同じです。僕のデジタルが「ライカM9-P」で、フィルムが「ライカM2」。清水さんが「ライカM9」で、フィルムが「ライカM3」。「M3」と「M2」はほとんど一緒で、「M3」は35ミリレンズが使えなくて、「M2」は使えるという違いだけなんです。

清水 : これ、ちょっとややこしくて(笑)、「M3」の方が先で、「M2」と「M1」が後に出ているんですよ。

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