“実体験からしか生まれない圧倒的な服”
TEATORA(テアトラ)デザイナー
上出大輔インタビュー
上出さんの考える“ファッション”
“着る人が「どう生きるのか」みたいなことに、[テアトラ]がそっと添えられるか”
あまりファッション界の横の繋がりは持たず、ファッションシーンにも疎いという上出さん。上出さんが“役に立ちたい”と考える元になっている、普段から接している人の多くは、ファッション業界とは離れていても、格好いいと感じる人が多いそうです。
「何を着ているから格好いい、みたいな感覚は個人的には随分前から無いように思いますし、世間でも薄れてきたように感じます。僕自身の年齢もあるかもしれませんが、尊敬する人が増えれば増えるほど、もっと生身の人間を見るようになってきたのかなと。いろんな方々にお会いしていると、考え方や働き方、もっと言えば生き様みたいな部分に格好いいなあと痺れることがあります。そういう“痺れる人”の役に立つものを作りたいというのが[テアトラ]のスタートなので、着用する人の個性よりも[テアトラ]が目立ってしまうような提案はしたくないんです」
展示会は行うものの、ランウェイショーどころかスタイリングや男性像を提案するようなルック写真すらも作らないという[テアトラ]。そこには上出さんが考える、プロダクト用途の多様性を求める姿勢があります。
「そういうファッション的な部分は、着用者の個性に委ねていますし、使い方すらも個性に委ねられてこそだと思っています。僕らはビジネスウェアとして開発していますが、お母さんが『子育てに便利だ』と言って使ってくれるケースもたくさんあるので。そういう意味では僕がいま作っているものはファッションとは遠いものかもしれません」
実際に筆者の周りでも[テアトラ]の収納の多いコートやパンツは、男女問わずカメラマンに愛用者がおり、そういう意味でも上出さんの“使い方も個性に委ね”た結果は現れています。[テアトラ]のプロダクトは今後どのように変化し、今後型数などを増やす予定なのかを聞きました。
「先ほどデバイスの変化でポケットや仕様が変わるという話もしましたが、働く上において必要なものに変化があれば、形も変えて行きます。例えば今海外ではキャッシュレス化が進んでいて、その波は日本にも来るでしょう。そうなれば自ずと作るものは変わるはずです。変わらないことを目的にしてはいないし、圧倒的に売れているものがあったとしても、不便と感じたらそれはもう販売しない。そこは常に、“役に立つかどうか”が基準です」
上出さんは、自身が考えるプロダクトにおけるファッションの要素は、「本当に仄(ほの)かなもの」だと考えているそうです。「仄かにしか入れないからこそ線ひとつ、仕様ひとつには神経を尖らせて考えます。ただ、それよりも着用する個々の人がどう使い、どう着て、どう働くか。さらに大きいことを言うのであれば、着る人が“どう生きるのか”みたいなことに[テアトラ]がそっと添えられるかを考えたいなと思っています」
上出大輔 (Daisuke Kamide) TEATORA(テアトラ)代表取締役 / デザイナー。1977年生まれ。2012年に[テアトラ]をスタート。2015年〜2017年[alk phenix(アルク フェニックス)]のディレクターを立ち上げから2年間務める。2018年に東京・千駄ヶ谷エリアに直定店「TEATORA Sendagaya」をオープンさせる。
《編集後記》
冒頭にも書きましたが、[テアトラ]の“便利さ”を自ら体感していました。それは上出さんのインタビュー中にもありましたが、A面的機能とB面的機能の両方があるからこそ、仕事着としても使いやすいのだと思います。気に入るとそればかり着てしまうタイプなので、かなりのリピート頻度で着用している[テアトラ]の服は、完全に自分の新定番。初めてインタビューした上出さんは哲学的とまで言える考え方をお持ちでしたが、目的と手法が完全に一致しているその話には取材中何度も頷かされ、自分の持っている[テアトラ]の服に一層の信頼が生まれました。(武井)